平成28年5月31日に閣議決定されたアルコール健康障害対策推進基本計画の今後の地域展開が期待される。一部の地域自治体においては、推進計画の策定に乗り出したところである。断酒会員としては、その動向に注目するだけではなく、協力・参加が求められるところであるが、実際に自治体はどのように国の指針を地域の施策へと移管・構築していくのか、市井の一員としてそのあり方や意義について思いを馳せてみるのもよいかもしれない。
今般の基本計画のみならず、一般に地域で行うべき計画策定に用いられる社会計画は、社会システムのあるべき姿という視点から、政策目標を設定し、その実現を目指して行われるプログラムである。まず、地域保健あるいは福祉などの現状に対して、それをどう変化させたいのかを目標値に設定、その期待に合ったアウトプットを得るために、政策によって資源をインプットするものである。住民のために、施策を総合的な観点からデザインしていこうとするもので、積極的な政策介入も行いながら、市場原理も前提として市民活動も含め、整合的に調整をしていこうとするものである。
例えば、何らかの社会福祉を推進していくとしよう。その福祉計画は、地域の実情に応じた、地域社会レベルでの社会福祉ニーズの充足を目的とした行政計画でなければならない。それぞれの地域によってニーズは異なるため、各地域において策定されることが望ましく、ミクロ的な視点では、特に住民個人の問題や福祉ニーズを掘り下げて、地域住民全体の共通課題として計画を策定するということである。そのために地域住民の意見を策定段階から反映させていくことが重要であり、それによって住民の生活者論理に基づいた社会福祉の展開が可能になるのである。実施しようとする社会福祉が、住民生活に密着したものであれば、国が事業を並べただけの絵に描いたもち的な中央集権的福祉計画とは一線を画すことができる。地域福祉計画策定に住民が参加する意義は、地域福祉が住民の主体性を促進し、さらに住民は地域福祉を促進するという相関関係にあるだろう。また、住民自らが政治に関わっていく「住民自治」が地域の組織化活動を活発にし、多様なネットワーク、サービス方策の確立などを通して福祉的なコミュニティづくりがなされ、誰もが幸せに暮らせる地域へとつながるのである。これもまた一例ではあるが、地域福祉推進の理念や基本目標が、2002年社会保障審議会福祉部会において提示されている。「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針の在り方について」(一人ひとりの地域住民への訴え)と題し、「地域福祉推進の主体である住民等の参加を得て、地域の要支援者の生活課題とそれに対応する必要なサービス内容や量、その現状を明らかにし、かつ、確保し提供する体制を計画的に整備すること」とある。地域福祉推進の理念には、地域住民の主体的な参加が大前提であり、「地域住民の参加がなければ策定できない」ことが地域福祉計画の特徴であると述べられている。また、多様性を認め合う地域住民相互の連帯関係が不可欠であるとされている。このことからも、アルコール健康障害対策推進基本計画の主体が、私たち酒害者を含む地域住民でなければならないことに改めて納得させられる。
さて、私たち断酒会員一人一人の立ち位置はどうであろうか。わが県、わが町の動静はどうであろうか。奈良県においては、ワーキンググループによる検討会がすでに活発な議論を重ねているという。長い酩酊生活を言い訳としてもなお私自身がまず、いかに無気力無関心、そして無知であったことか。子を持つ親となり、学校の取り持つ縁で多少は地域との関係を意識するようになったが、参画しているとはとても言いがたい。断酒はしたものの、わが町の酒害と対策の実情にはまだまだ疎い。積年の地域社会との隔絶を挽回し、自らの役割を地域の中で見出していくには、断酒会活動に携わるようになった今、そして基本計画地域推進の機運の高まる今が、逃してはならないタイミングなのかもしれない。